公開日:2026/09/14
登山や林道ツーリング、離島旅行では、街中と同じようにスマートフォンがつながるとは限りません。山間や谷間、基地局から離れた場所では圏外になりやすく、万が一のときに助けを呼べない状況も起こりえます。
万が一に備えるうえで大切なのは、1つの機器やサービスに頼り切らないことです。オフライン地図や衛星通信、捜索支援サービス、無線機など、役割の異なる手段を重ねて準備することが重要です。
この記事では、登山・林道・離島の3つのシーンに分け、何をどうそろえればよいかを具体的に解説します。
登山・林道・離島など携帯電話の電波が届きにくい場所での通信は、1つの手段に頼るのではなく多層化(レイヤリング)が基本となります。例えば、「スマートフォン(衛星通信機能)」+「専用ガジェット」+「無線機などのバックアップ」を組み合わせるとよいでしょう。
具体的には、次の3層で考えます。
これらは、どれか1つですべてを補えるものではないため、役割を分けて複数の手段を準備することが重要です。
アウトドアの出発前に、共通の準備として、まず次の5点を確認しておきましょう。
確認項目 | 内容 |
エリア・地形 | 通信事業者のエリアマップを確認します。ただし、山や樹木、建物、地形などの影響で、エリア内でも通信が不安定になる場合があります。 |
端末・アプリ | 地図アプリやSOS対応アプリを事前にインストールし、OSとアプリを最新版にします。衛星通信は、対応機種・契約・対象地域を確認します。 |
オフライン情報 | 地図、予定ルート、予約情報、交通情報、緊急連絡先を端末へ保存します。端末が使えない場合に備え、紙にも控えます。 |
行動計画の共有 | 目的地、予定ルート、帰宅予定時刻、連絡がない場合の対応を家族や同行者と共有します。 |
電源と予備手段 | スマートフォンと専用機器を充電し、モバイルバッテリーと充電ケーブルを防水袋に入れて携行します。操作方法も通信できる場所で確認しておきます。 |
なお、地域によってつながりやすいキャリアは異なります。月額数百円のサブ回線を追加してデュアルSIMにしておくと、片方が圏外でももう片方が入る可能性があります。
ただし、山間部では両方つながりにくくなるケースもあるため、デュアルSIMは「第1層の補強」と位置づけ、衛星系の手段と組み合わせるのがよいでしょう。
Starlink・au Starlink Directのようなスマートフォン直接衛星通信サービスの詳しい仕組みや使い方は、以下の記事「Starlinkとは」で解説しています。また、圏外全般で使える通信手段の全体一覧は「圏外・基地局がない場所で使える通信手段」で解説していますので、こちらも併せてご覧ください。
前述した共通の準備に加え、登山では登山計画や紙の地図、コンパスを準備し、低温や水濡れへ対策することも必要です。
また、登山では、遭難時に「SOSを発信できるか」「自分の位置を伝えられるか」が生死を分けます。標高が高ければ電波が入るわけではなく、谷や樹林帯では圏外になることが珍しくありません。そうした場合には、登山アプリが位置確認の有効な手段となります。
出発前に、YAMAPやヤマレコなどの登山アプリで山域の地図と予定ルートを保存しておけば、携帯電話の圏外でも、スマートフォンの内蔵GPSで現在地を把握できます。
また、山中で圏外になると、スマートフォンが電波を探し続けてバッテリーを消費する場合があるため注意が必要です。歩行中は機内モードにし、現在地の確認はGPSだけで行いましょう。ただし、au Starlink Directなど、携帯電話の無線機能を利用するサービスを使う際は機内モードを解除し、空が開けた場所へ移動して操作してください。
出発前には、登山計画共有サービス「コンパス」などのオンライン申請サービスで登山計画を家族と共有し、必要に応じて警察に提出しておくことも大切です。緊急連絡先や加入している山岳保険のサポートデスクも紙に控えておきましょう。
スマートフォンを唯一の地図にすると、落下・水濡れ・低温での停止で使えなくなるおそれがあります。紙の地図とコンパスも携行し、使い方を身に付けておくと安心です。
au Starlink Direct は、地上基地局の電波が届かない圏外エリアでも、Starlink 衛星とスマートフォンが直接通信できるサービスです。auをご契約で対応スマートフォンをお持ちであればそのままご利用いただけますが、UQ mobileや他社プランをご利用の方はau Starlink Direct専用プランへの加入が必要です。
au Starlink Directが使える状態で、万が一、圏外エリアで遭難・トラブルに遭った場合には、状況に応じて以下の 2つの手段 を活用することができます。
圏外から対応アプリでSOS情報を送信し、SOSセンター経由で警察や消防などの緊急通報受理機関へつなぐ「自分から助けを呼ぶ」手段です。
au Starlink Direct SOSは、au 5G/4G LTEの圏外でも空が見える場所であれば、対応アプリに入力したSOS情報を送信できるサービスです。
対応アプリからSOS情報を送信すると、Starlink衛星経由でau Starlink Direct SOSセンターへ送られます。その後、オペレーターが状況と位置情報を確認したうえで、警察・消防・海上保安庁などの緊急通報受理機関へ通報します。KDDIが救助を行うサービスではなく、緊急通報につなぐ役割である点を押さえておきましょう。
会員制の山岳遭難対策サービスです。会員が携帯する専用発信機の電波と捜索ネットワークを活用し、遭難者の位置特定・捜索を支援する「見つけてもらう」手段です。
会員が携行する専用発信機の電波を捜索側の受信機でとらえ、遭難時の位置特定を支援します。本人がスマートフォンを操作できない状況でも発信機は電波を発信し続けるため、「連絡するための通信手段」ではなく「位置を見つけてもらうための備え」として考えてください。
つまり、スマートフォンを操作できるならau Starlink Direct SOS、本人が動けない・スマートフォンを失ったときにはココヘリが有効といえます。単独行や冬山、長時間行動では、この2つを備えておくと安心です。
手段 | おもな役割 | 利用時に確認すること |
au Starlink Direct SOS | 圏外からSOS情報を送り、SOSセンター経由で緊急通報受理機関へつなぐ | 対応契約(au / UQ / 他社プラン)・対応機種・アプリ・空の見え方・位置情報設定など |
ココヘリ | 発信機の電波と捜索ネットワークで、遭難者の位置特定・捜索を支援する | 会員登録・発信機の携帯と充電・家族が捜索要請手順を知っているか |
冬山では、氷点下の寒さでリチウムイオンバッテリーの電圧が急激に下がることがあります。スマートフォンやモバイルバッテリーは、体温が伝わるインナーウェアの胸ポケットで保管するのが鉄則です。
低温で停止した端末は、温めると復帰することもあります。ただし、復帰しないことも想定して、紙の地図と予備電源を必ず携行しましょう。端末は結露や汗、水濡れを避けて管理することも重要です。
また、パーティー(同行者)同士の連絡や、近くの山小屋などへの連絡には、現在でも無線機が根強く利用されています。デジタル簡易無線は無線従事者資格が不要で、使用前に無線局の登録手続き(オンラインで完結)を済ませれば利用できます。また、アマチュア無線は資格と免許が必要ですが、より遠距離での通信も可能です。
使用前には、チャンネルや呼び出し方法、連絡が途切れたときの集合場所を決めておきましょう。ただし、山の反対側や深い谷では電波が届かないこともあるため、無線機はあくまで「パーティー内の連絡手段」と位置づけ、外部へのSOSは衛星通信を利用してください。
登山スタイル | おすすめの装備 |
里山・日帰り登山 | スマートフォン(登山アプリの地図DL+歩行中は機内モード)+モバイルバッテリー+紙地図+登山届+ココヘリ |
本格的な日本アルプス・雪山・ソロ登山 | 上記に加え、au Starlink Direct SOSを利用できるスマートフォン(※)・対応アプリ、必要に応じて衛星コミュニケーター
|
林道では、前述した共通の準備に加え、通行止め情報や車両の状態、ロードサービスの連絡先を確認し、スタックや故障に備えた装備も点検しておきましょう。
林道のドライブやツーリングでは、車やバイクの故障、スタックなどで孤立するリスクがあります。林道は現在地を道路名だけで説明しにくい場所も多いため、通行予定のルートや位置情報を事前に確認・共有しておくことが重要です。
出発前に通信事業者のエリアマップを確認し、圏外区間が長いルートでは、別の通信事業者の回線を副回線として追加しておくのがおすすめです。
さらに、圏外(※)で事故や急病が起きた場合に備え、「au Starlink Direct SOS」を利用できるよう、対応端末であることを確認し、必要な契約や設定、対応アプリを事前に準備しておきましょう。対応アプリからSOS情報を送信すると、衛星経由でau Starlink Direct SOSセンターにつながり、オペレーターが状況や位置情報を確認して緊急通報受理機関へ通報してくれます。
ただし、林道は斜面や樹木で空が遮られやすく、地上回線と衛星通信のどちらも使いにくいケースも考えられます。通信手段に過度に依存せず、予定ルートや帰着時刻の共有、引き返す基準の設定など、通信できない状況を前提とした行動計画を立てておきましょう。
なお、パンクやバッテリー上がり、スタックなど、生命に差し迫った危険がない車両トラブルは、JAFなどのロードサービスへ連絡するのが基本です。負傷者がいる、火災が発生した、孤立で生命に危険がおよぶといった場合に、緊急通報やSOSを使いましょう。
仲間と複数台の車・バイクで林道を走る場合は、デジタル簡易無線(デジ簡)がおすすめです。基地局を経由せず直接通信するため、お互いが圏外でも数キロ圏内であればクリアな音質で通話しやすく、情報をリアルタイムに共有できます。
デジタル簡易無線は無線従事者資格が必要なく、使用前に無線局の登録手続きを済ませれば利用が可能です。ただし、通信距離は地形やアンテナ、送信出力などの条件によって変わり、山を挟むと電波が届かないこともあります。あくまで隊列内の連絡手段として活用しましょう。
また、単独で電波のない奥地へ頻繁に行く場合や、業務で使う場合は、Garmin inReachのような衛星コミュニケーターをスマートフォンと組み合わせる方法もあります。専用機器はスマートフォンとは別の電源・通信経路を持てる点が強みです。機種ごとに対応機能、利用地域、料金プランが異なるため、必要な機能と利用頻度を考えて選びましょう。
林道の圏外対策では、「助けを呼ぶ道具」だけでなく「助けが必要になる前に引き返すための準備」も同じくらい重要です。電波があるうちに、次の準備を済ませておきましょう。
利用シーン | おすすめの組み合わせ |
ソロでたまにドライブ・ツーリング | au Starlink Direct SOSを利用できるスマートフォン・対応アプリ+オフラインマップ+予備電源+行程共有 |
電波のない奥地へ頻繁に行く・業務で使う | 上記に加え、Garmin inReachなどの衛星コミュニケーターと車両用の非常装備 |
仲間とワイワイ走る | 車載・ハンディのデジタル簡易無線を全員で携行+集合ルールの取り決め |
離島に行く際は、前述した共通の準備に加え、航空便の運航情報、港からの移動手段を確認するほか、通信環境の課題にも注意が必要です。
ここでは、離島特有の3つの課題と、それを解決しつつある最新技術を整理します。
1つ目は、島と本土を結ぶ回線のコストです。本土と島をつなぐ際には海底光ケーブルが用いられますが、数十億〜数百億円規模の費用がかかるケースもあり、人口の少ない離島では国の補助に頼らざるをえません。破損時の修復には、数千万円〜数億円単位の費用と長い日数がかかる場合もあります。
2つ目は、災害時に「二重の孤立」が起きることです。地震や台風で海底光ケーブルが切断されたり、基地局が被災したりすると、利用できる回線が制限される可能性があります。船やヘリコプターが出せなければ移動基地局も派遣できず、物理的な孤立と通信の孤立が同時に発生するおそれがあります。
3つ目は、島内でのつながりにくさです。主要な有人離島には光ファイバーや4G/5G回線が届き始めていますが、地域によっては依然として電波が不安定な状態にあります。観光シーズンには回線が混雑することもあるため、旅行者は「島に着けば通信できる」と思い込まないようにしましょう。
こうした課題は、衛星通信の普及によって大きく改善しつつあります。
Starlinkに代表される低軌道衛星通信により、海底光ケーブルを引くのが難しかった小規模な離島や避難所でも、専用アンテナを設置することで高速インターネット環境を構築できるようになりました。KDDIも、山間部や島しょ部の携帯基地局を本土のネットワークへつなぐ回線や、地上回線に障害が起きた際のバックアップとして、Starlinkを配備しています。
通信キャリアが衛星通信企業と連携し、地上の基地局ではなく宇宙の衛星とスマートフォンを直接つなぐサービスも拡大中です。離島の砂浜や山間部でも、空が見えていれば手持ちのスマートフォンのままメッセージを送受信できるようになりつつあります。
さらに、成層圏に無人航空機を飛ばして通信を届ける「空飛ぶ基地局(HAPS)」の実証実験も進行中です。衛星より地上に近いため通信の遅延が非常に少なく、将来の通信インフラを補完する技術として期待されています。
ただし、衛星通信を利用するには、電源や対応端末、契約、空の見え方などの条件を満たす必要があります。島の通信インフラをすべて置き換えるものではなく、地上回線と組み合わせることで通信手段の選択肢を広げる技術ととらえるのが適切でしょう。
このように、離島では通信環境が改善しつつある一方、天候や設備障害などで一時的に通信しづらくなる可能性もあります。
離島に行く前には、乗船券や航空券、宿泊先、港からの移動経路、島内地図、帰りの時刻表を端末へ保存しておきましょう。同行者とは、通信できない場合の集合場所と時刻を決めておくと安心です。モバイルバッテリー、防水ケース、少額の現金、紙の連絡先も役立ちます。
登山・林道・離島では、スマートフォンが確実につながるとは限りません。オフライン地図や行動計画、衛星通信、捜索支援サービス、無線機など、それぞれ役割の異なる手段を組み合わせて備えることが、安全な行動につながります。
圏外エリアで遭難・トラブルに遭った場合には、au Starlink Direct SOSのような新しいサービスも、有効な手段の一つです。ただし、対応する端末や契約、アプリ、空が見える環境など、いくつかの利用条件があります。出発前に公式サイトの最新情報を確認し、アプリ更新や設定、操作方法の確認まで済ませておきましょう。