公開日:2026/09/14
非地上系ネットワーク(NTN)とは、人工衛星や成層圏を飛ぶ機体など、空や宇宙にある設備を使って通信するネットワークのことです。地上の基地局や光ファイバーが届きにくい山間部、離島、海上、災害時などの通信を、上空から補完する役割が期待されています。
NTNを構成する設備は、大きく分けて静止軌道衛星(GEO)、低軌道衛星(LEO)、中軌道衛星(MEO)、高高度プラットフォーム(HAPS)の4種類です。飛んでいる高度によって、カバーできる範囲や通信の遅延、得意な用途が異なります。
この記事では、NTNの定義、GEO・LEO・MEO・HAPSの違い、Starlink衛星が周回する軌道、5Gとの関係、メリットと今後の課題までをわかりやすく解説します。
「NTN」は通信分野で注目されている略語の一つです。まずは正式名称を確認し、私たちが普段使っている地上のネットワークとの違いを見ていきましょう。
非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)とは、地上の基地局だけでなく、人工衛星やHAPSなど、空や宇宙にある通信設備を使うネットワークのことです。
私たちが普段使っている地上系ネットワーク(TN:Terrestrial Network)は、光ファイバーなどの固定回線や、地上の基地局からの電波を使って接続します。都市部や生活圏では高速・大容量の通信を提供できる一方、山間部や離島、海上などの基地局や回線を整備しにくいエリアが発生するという課題があります。
NTNは地上系ネットワークを置き換えるものではなく、地上系ネットワークが届きにくいエリアを上空から補完する技術と理解するとわかりやすいでしょう。
通信の基本的な流れは、次の3段階です。
つまり、NTNは「宇宙や空に基地局を置く」という発想です。地上の設備がまったく不要になるわけではなく、利用する端末、ゲートウェイ、地上のネットワーク、電源なども必要になります。
Starlinkのような衛星インターネットも、広い意味ではNTNの一種です。人工衛星やHAPSなど、地上以外の設備を利用する通信網が含まれます。
一方、携帯電話業界で「NTN」という場合は、3GPP標準に基づき、スマートフォンやIoT端末が衛星などを経由して5G/6G系ネットワークへ接続する仕組みを指すことが多く見られます。3GPPは2022年のRelease 17で、5Gに衛星アクセスを組み込むための仕様を初めて整備しました。
つまりNTNは、「地上基地局だけに頼らない通信網」全般を指す広い概念と、3GPP標準に基づく携帯通信向けの技術的な仕組みという、2つの意味で使われている点に注意が必要です。
なお、実際に提供されているスマートフォンへの直接通信サービスが、すべて3GPPのNTN方式を採用しているわけではありません。例えば、au Starlink Directは、既存のau周波数とStarlinkの直接通信衛星を使うサービスです。「NTN」という分類と、個々のサービスが採用する技術方式は分けて考えましょう。
NTNは、高度によって役割の異なる設備で構成されています。代表的な設備には、静止軌道衛星(GEO)、低軌道衛星(LEO)、中軌道衛星(MEO)、高高度プラットフォーム(HAPS)があります。
種類 | 高度 | 特徴 |
静止軌道衛星(GEO) | 約3万6,000km | 広範囲を1基でカバーできるが、遅延が大きくなりやすい |
低軌道衛星(LEO) | 約200〜2,000km(Starlinkは600km未満) | 低遅延・高速だが、多数機によるコンステレーションが必要 |
中軌道衛星(MEO) | LEOとGEOの間 | カバー範囲と伝搬距離がLEOとGEOの中間 |
高高度プラットフォーム(HAPS) | 約20km(成層圏) | スマートフォン・IoT向けの通信エリアを形成でき、柔軟な配置が期待される |
静止軌道衛星(GEO:Geostationary Earth Orbit)は、高度約3万6,000kmに位置し、地球の自転と同じ速度で周回するため、地上からは同じ場所に止まって見える衛星です。
高度が高いぶん通信エリアが広く、1基で地球表面の広範囲をカバーできます。地上のアンテナを一度その方向へ向ければ、あとは向きを変えずに使える点も特徴です。
テレビの衛星放送、気象観測、船舶・航空機向けの通信など、幅広い用途で利用されています。一方、地上との距離が遠いため、電波の往復に時間がかかり、通信の遅延が大きくなりやすいという特徴もあります。
低軌道衛星(LEO:Low Earth Orbit)は、ESAの説明ではおおむね高度2,000km以下で、地球に近い軌道を回る衛星です。
地球に近いぶん通信距離が短く、遅延を抑えやすい一方、1機だけでは同じ場所を継続的にカバーできないため、多数の衛星を連携させた「衛星コンステレーション」として運用されます。
Starlinkは、SpaceXが運用するLEO衛星インターネットサービスの代表例です。Starlink公式資料では、高度600km未満で衛星を運用し、通常とは異なる状況が発生した場合でも、大気抵抗によって比較的短期間で軌道離脱する設計だと説明されています。
なお、LEOとGEOの間には中軌道(MEO)もあり、GPSの測位衛星などで利用されています。通信用途で使われることもありますが、NTNの中心となっているのはLEOです。
Starlinkの料金や使い方については、関連記事「Starlink/Starlink Directとは?」で詳しく解説しています。
中軌道衛星(MEO:Medium Earth Orbit)は、LEOとGEOの間にある広い軌道領域を指します。3GPPの解説では代表的な高度として約8,000~20,000km、ESAはLEOとGEOの間の軌道として説明しています。
MEOは、GPSやGalileoなどの衛星測位システムで広く使われています。通信システムに利用される場合もあり、LEOより少ない衛星で広い範囲をカバーしやすく、GEOより伝搬距離を短くできるという中間的な特徴があります。
高高度プラットフォーム(HAPS:High Altitude Platform Station)は、成層圏(地上から約20km前後)を長期間飛行する無人航空機などを利用した通信プラットフォームで、「空飛ぶ基地局」とも呼ばれます。
衛星よりも地上に近いため、スマートフォンやIoT端末との間で高速・大容量な直接通信ができる点が特徴です。必要な地域の上空に配置しやすい柔軟さがあり、災害時に臨時の通信エリアを作る用途にも期待されています。
HAPSの実用化に向けては、機体を成層圏で長期間安定して飛行させるための電力確保や気象条件への対応といった課題があります。現在、国内外で実証実験が進められており、次世代の通信インフラとして実用化に向けた研究開発を行っている段階です。
LEOの代表例であるStarlinkについて、軌道をもう一歩踏み込んで見てみましょう。Starlinkそのものの概要や料金は関連記事で紹介していますので、ここでは軌道・技術面に絞って解説します。
Starlinkの衛星は、地球の同じ場所に止まって見える静止衛星ではなく、地球の周りを高速で周回する低軌道(LEO)の非静止衛星です。
軌道の形はほぼ円軌道に近く、赤道に対して斜めに周回します。軌道傾斜角には、約43度・53度・70度・97度など複数の軌道があり、組み合わせることで、赤道付近から高緯度地域まで幅広いエリアをカバーすることが可能です。
衛星は約90分で地球を1周するため、利用者から見える衛星は順次入れ替わります。Starlinkアンテナは、その都度最適な衛星へ自動的に接続を切り替えながら通信を維持しています。
Starlinkは1つの軌道だけでなく、大量の衛星を複数の「軌道シェル」(同じような高度・軌道傾斜角の衛星グループ)に分けて配置しています。
Starlinkで広く知られているのは、高度約550kmの軌道です。しかし、Gen2 Starlinkに関する米FCCの認可資料では、高度525〜535km付近のシェルに加え、340〜360km台のより低いシェルも運用高度の選択肢として示されており、世代や運用計画によって高度が変わります。
低い軌道を使う理由は、地上との距離が短いぶん通信遅延を小さくできるためです。
静止衛星(約3万6,000km上空)を利用した衛星通信では遅延が大きくなりがちですが、Starlinkは数百km上空の低軌道衛星(LEO)を利用することで、低遅延なブロードバンド通信を実現しています。
なお、これらは規制当局が認可した軌道条件であり、ある時点で実際に運用されているすべての衛星の高度を示すものではありません。
ここまで見てきたStarlinkのLEO衛星コンステレーションは、日本でも実際のサービスとして利用されています。利用形態は大きく2つに分かれます。専用アンテナを設置して使う衛星ブロードバンドと、対応スマートフォンが衛星と直接通信する方式です。
専用アンテナを使うタイプには、個人向けのStarlinkのほか、KDDIが法人向けに提供するStarlink Businessなどがあり、山間部の拠点、離島、船舶、災害時の臨時回線などで利用されています。
一方、スマートフォンが衛星と直接通信するサービスがau Starlink Directです。KDDIが2025年4月10日に提供を開始したもので、専用の衛星電話や専用アンテナを用意することなく、既存のau周波数を使って、対応するauスマートフォンが直接通信に対応したStarlink衛星と接続します。日本全土の47都道府県および領海が対象で、空が見える環境であれば、au 5G/4G LTEの圏外でも通信できます。
提供開始時点で利用できたのは、テキストメッセージの送受信、現在地の位置情報共有、緊急地震速報や津波警報などの受信です。2025年8月28日にはデータ通信にも対応し、地図、天気、SNS、防災など、対応するアプリに限ってデータ通信を利用できるようになりました。KDDIは、Starlink衛星とスマートフォンの直接通信において、対応アプリでのデータ通信を提供するのは世界初です。
ただし、au Starlink Directは地上の携帯電話網をそのまま置き換えるものではありません。利用には対応機種が必要で、対応機種は順次拡大しています。音声通話には対応しておらず、データ通信も対応アプリに限られます(2026年8月時点)。また、屋内や、山・建物に空を遮られる場所では接続しにくくなります。LEO衛星を使うNTNの特性と制約が、そのままサービスの利用条件として表れているといえます。
「5G」と「NTN」は対立する技術ではなく、互いの弱点を補い合う関係にあります。この章では、その違いと関係性を整理します。
5G(地上系ネットワーク)は、地上の基地局を利用し、比較的小さなエリアを超高速・大容量・低遅延でカバーすることを得意とします。
一方、NTNは人工衛星やHAPSなどの宇宙・成層圏の通信設備を活用し、地上ではカバーしにくい広いエリアへ通信を提供できます。現在実用化されているNTNでは、通信速度や容量は5Gより控えめで、遅延もやや大きくなる傾向があります。
また、5Gは地上の基地局が災害などで被災すると通信に影響を受けますが、NTNは通信設備が宇宙や成層圏にあるため、地上インフラが被災した場合でも通信を維持しやすいという特徴があります。
項目 | 5G(地上系ネットワーク) | NTN(非地上系ネットワーク) |
基地局の場所 | 地上(ビル、鉄塔、電柱など) | 宇宙・空(人工衛星、成層圏の飛行体) |
カバーエリア | 狭い(基地局から数百m〜数km) | 広い(地球全体、国単位) |
通信速度・容量 | 超高速・大容量 | 通信性能は方式(衛星・HAPSなど)やサービスによって異なる |
通信の遅延 | ほぼゼロ(超低遅延) | 地上5Gに比べて大きい傾向(距離があるためタイムラグが生じる) |
災害への強さ | 基地局が壊れると圏外になる | 地上の災害の影響を受けにくい |
おもな用途 | 都市部でのスマートフォンの利用、高画質動画、工場自動化 | 山間部・海上・上空、災害時のバックアップなど |
なお、NTNのなかにもLEO衛星ブロードバンドのように高速な通信を提供するサービスがあります。速度や遅延は軌道、周波数、利用者数によって変わるため、上の表は大まかな傾向としてとらえてください。
5Gがさらに進化した5G-Advancedや6Gでは、地上のネットワークと宇宙・空のネットワークを一体的に利用する通信基盤の実現が目指されています。
将来的には、街中では5G、電波の届きにくい山間部や海上ではNTN(衛星通信)に切り替わるなど、利用者が通信方式の違いを意識せず利用できるシームレスな通信環境の実現が期待されています。
3GPPでは、Release 17で5Gに衛星アクセスの仕様を初めて整備し、Release 18以降では地上ネットワークと衛星ネットワークをまたぐサービス継続性の強化が進められている状況です。実現には、対応端末、利用周波数、各国の制度整備など、今後も取り組むべき課題が残されています。
ここでは、NTNが普及することで得られるメリットや、残された課題について整理していきます。
NTNの価値は、地上網の代わりになることではなく、地上網と組み合わせて、状況に応じて最適な通信経路を利用できるようになることにあります。
これらはNTNを否定する要素ではなく、標準化、技術開発、運用ルールの整備が今も続いていることを示すものです。
ここでは、NTNに関するよくある質問を紹介します。
非地上系ネットワーク(NTN)は、人工衛星やHAPSなど、地上以外の設備を使って通信するネットワークです。地上系ネットワークを置き換えるのではなく、山間部や離島、海上、上空、災害時などで地上網を補完します。
NTNでは、おもに静止軌道衛星(GEO)、低軌道衛星(LEO)、中軌道衛星(MEO)、高高度プラットフォーム(HAPS)などが活用されています。GEOは少ない衛星で広域をカバーでき、LEOは遅延が小さく、HAPSは成層圏から通信エリアを形成しやすいという特徴があります。
NTNと5Gは対立する技術ではありません。3GPPでは5Gに衛星アクセスを組み込む標準化が進んでおり、将来的に街中では5G、圏外では衛星へ切り替わるようなシームレスな通信が目指されています。
通信速度や容量、スペースデブリ、周波数と法規制などの課題は残っていますが、個人が利用できる衛星通信サービスも登場しています。まずは、自分のスマートフォンで衛星通信が利用できるかを確認してみましょう。