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新たな文化創出の起点に。
「バーチャル渋谷」の誕生

2020.6.10

Walk

2020年5月バーチャルSNS「cluster(クラスター)」内に、もうひとつの“渋谷”が誕生した。

バーチャル渋谷の様子

アプリで入場すると、渋谷駅前スクランブル交差点エリアの景色が、目の前に広がる。
「SHIBUYA109」や「Q-FRONTビル」のような有名大型商業ビルはもちろん、ハチ公の銅像や緑の電車(青ガエル観光案内所)など、細かなところまで現実の渋谷そっくりに再現され、多くの来場者を驚かせた。

バーチャル渋谷の様子
バーチャル渋谷の様子

この「バーチャル渋谷」は、KDDIが主幹事として参画・推進している「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」で企画・制作されたもの。渋谷区公認の配信プラットフォームである。

また同時にNetflixで配信中のオリジナルアニメシリーズ『攻殻機動隊 SAC_2045』とのコラボレーション企画も行われ、作中に登場するキャラクター「タチコマ」の姿や作品の系譜を紹介した特別なボードも展示されていた。

バーチャル渋谷に登場する「タチコマ」
『攻殻機動隊 SAC_2045』についての展示

今回オープニングイベント「#渋谷攻殻NIGHT by au 5G」に参加し、実際の「バーチャル渋谷」を体感したので、その模様をレポートしよう。

2020年と2045年、ふたつの“渋谷”が交差したバーチャル空間

「#渋谷攻殻NIGHT by au 5G」開始前の様子

当日スクランブル交差点に設置された巨大ステージの前には、アバター姿の来場者たちが押し寄せていた。イベントのスタートを今か今かと待っている状況は、現実の野外音楽イベントのような雰囲気。チャット欄でも、ゲストを応援する熱いコメントが多く見られた。

「#渋谷攻殻NIGHT by au 5G」トークショーの様子

今回の企画は全世界で圧倒的な人気を誇るコミック『攻殻機動隊』を原作とした最新作である、Netflixオリジナルアニメシリーズ『攻殻機動隊 SAC_2045』について、登壇者がその魅力を語り合うというトーク番組だ。

出演者はタレント兼渋谷未来デザイン フューチャーデザイナーの若槻千夏さん、ミュージシャンのDJ LOVEさん(SEKAI NO OWARI)、「にじさんじ」所属のバーチャルライバー アンジュ・カトリーナさん、S/U/P/E/R DOMMUNE代表の宇川直宏さんの4名。

立場も世代もバラバラだが、全員が『攻殻機動隊』シリーズ好きとして知られている。

「#渋谷攻殻NIGHT by au 5G」トークショーの様子

イベントがはじまると、出演者は3Dアバターの姿で登場した。全員がバーチャル渋谷の景観に驚いたようで、宇川さんは「何年もスクランブル交差点の景色の移り変わりを見てきた人間としては、大変感慨深いですね」とコメント。巨大なビル群を眺めつつ、それぞれの渋谷での思い出を振り返った。

「#渋谷攻殻NIGHT by au 5G」トークショーの様子

トーク後には登壇者がステージから降りて、来場者たちと一緒に「バーチャル渋谷」を“街ブラ”する流れに。「SHIBUYA109」ビル方面に向かって、参加者と一緒に歩き回ってみると、ドラッグストアや飲食チェーン店など、渋谷を知る人には馴染み深い景色が目に止まる。若槻さんも「本当にリアルな渋谷ですね……」と、周囲を見回しながら語った。

しかし、若槻さんの合図で「バーチャル渋谷」の景色は一変した。『攻殻機動隊 SAC_2045』の世界に迷い込んでしまったようだ。

『攻殻機動隊 SAC_2045』の世界に一変したバーチャル渋谷の様子
『攻殻機動隊 SAC_2045』の世界に一変したバーチャル渋谷の様子
『攻殻機動隊 SAC_2045』の世界に一変したバーチャル渋谷の様子

ビル群の合間には作中で登場したような大量の電子広告が出現。上空を見上げると、主人公・草薙素子の巨大な顔が映し出されている。この劇的な演出に、出演者含め全員が興奮。会場には拍手の音が長く響いていた。

バーチャル渋谷の様子

VRヘッドセットだけでなく、PCやスマートフォンからでもアクセスできたため、多くの来場者が押し寄せ、結果的にオープニングイベントは延べ5万人以上が参加するほどの盛り上がりに。アンジュさんは「攻殻ファンの自分も大興奮のひと時でした」とコメントし、DJ LOVEさんは「会場に足を運べない人も(バーチャル渋谷のように)ライブを楽しめるものが出てくればいいですね」と今後の展開に期待を寄せた。

イベント当日のアーカイブ映像

コロナ禍から生まれた「バーチャル渋谷」のアイデア

そもそもなぜ「バーチャル渋谷」は企画されたのか。KDDI 5G・xRサービス戦略部の浅井利暁に話を聞いたところ、きっかけはコロナウイルス感染症の流行による社会的影響の広がりだったそうだ。

「当初は今年の4月に『攻殻機動隊 SAC_2045』の世界と現実の渋谷の街を重畳させたXR体験企画『UNLIMITED REALITY』の展開を計画していました。MRヘッドセットやARグラスを活用し、渋谷のさまざまなランドマークでお客さまに楽しんでいただける新しい拡張体験の提供を予定していたのです。

ところがコロナウイルス感染症の拡大に伴い、安全確保の観点から渋谷の街を舞台とした企画は延期とし、外出自粛を余儀なくされる多くの方に少しでも不安や退屈を解消いただけるような完全オンラインでの施策を提供する判断をいたしました。バーチャル渋谷をを活用した今回のイベントも、そのひとつです。」(浅井)

「バーチャル渋谷」の企画は1~2ヶ月のうちに進行するという非常にスピーディなものだったという。それには現実の“渋谷”にまつわるパートナーを支援するための手立てを創り出したいという思いもあったそうだ。

「緊急事態宣言発令以前から、渋谷におけるさまざまな業態の方々にお話を伺うにつけ、非常に厳しいという声ばかりでした。渋谷区もそれは同様で、あれだけ人が集まっていたスクランブル交差点も『どれだけ人がいないか」という悲観的なバロメータになりつつあった中、これまで積み重ねてきた文化創出活動を絶やすことはできない、Afterコロナを見据えた新しい文化創出の枠組みが必要であると強く感じたのです」(浅井)

そこでまずは「cluster」内に『攻殻機動隊』コラボイベントの一部内容を盛り込んだ「バーチャル渋谷」を創造することに。スクランブル交差点周辺の風景のみならず、『攻殻機動隊』原作のサイバーパンクな世界観を再現することに力を注いだ。

「世界的にファンの多い偉大な作品だけに、底の浅いものを提供しては来場者の満足は得られないだろうと考えました。『cluster』のみなさまにも多大な尽力をいただき、ARの看板が渋谷中に広がる演出は、かなりこだわりを持って作りました。来場者の方々に少しでも未来の渋谷を体感していただければ幸いです」(浅井)

5G×「バーチャル渋谷」でさらに体験は拡張される

今後も「バーチャル渋谷」はスタイルをさまざまに変化させつつ展開される予定だ。そこには高速・大容量な5G回線の活用が大きく関わってくるという。

「KDDIは、これまでにも5Gを活用し、音楽ライブの演出をライブハウス外から伝送するような新しいエンタメ体験の提供や、ARを組み合わせ渋谷駅ハチ公前広場で1964年へスマートフォン上でタイムスリップする企画など、リアルとネットを組み合わせた新しい拡張体験を提供してきました。

コロナウィルス感染症が収束したとしても、世界にはオンラインにシフトした新しい価値観が存続し、その中ではますますバーチャルテクノロジーへの注目は集まるでしょう。数年後には、バーチャルで起きたイベントが、現実の世界でもそのまま反映されるというように、よりリアルとネットが融合するような体験も提供できると考えています」(浅井)

市区町村やエンターテイメント関連企業などが気軽に活用し、経済活動を存続できるプラットフォームにするため、バーチャル空間内での機能拡張や更なるプロモーション企画にも意欲的だ。

「具体的には渋谷区主催イベントでの活用や、ARアート展示会などを予定しています。また文化・芸術活動のみならずスポーツ等、さまざまな領域で活用していきたいと考えているところです。

普段の渋谷は、サッカーW杯など大型スポーツイベントで盛り上がる場所としても愛されています。バーチャル上であれば、より気軽で安全に多くの方が集まって楽しめる場所として活用できるかもしれません」(浅井)

「バーチャル渋谷」に多くの人達が交流し、同じ時を共有していく中で、これまでに体験したことのないような新たな文化が創造されるようになるかもしれない。





文・堀田隆大

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