今年も寒い季節がやってきました。冬に備えて、スマホを安全に使うためのポイントをKDDIでスマホの品質を管理する担当者がご紹介します。
【目次】
冬は気温が低くなり、身体を温めるためにさまざまな暖房器具を使うことが多いので、注意が必要です。
ストーブやヒーターの温風が当たる場所やホットカーペットの中、カイロと一緒に持ち歩くなどの高温になる場所はスマホが放熱できなくなり、熱を持ったままになってしまいます。
スマホが高温の環境にさらされると、バッテリーの劣化などの原因になる可能性があります。
<暖房器具の温度はどのくらい?>
使い捨てカイロの温度測定
⇒ポケットの中でスマホの動作保証温度である35℃を超え、43.6℃となった。
ホットカーペットの温度測定
(右はサーモ写真)
⇒毛布をかけたホットカーペットの中でスマホの動作保証範囲である35℃を超え、44.8℃となった。
電気ストーブの温度測定
⇒電気ストーブから40cm以内でスマホの動作保証温度である35℃を超える温度となり、特に5cm以内では85℃を超えた。
石油ファンヒーターの温度測定
(右はサーモ写真)
⇒約10~20秒と非常に短時間で108.6℃となった。
<暖房器具以外での高温の場所事例>
サウナ
ドライヤーの温度測定
(右はサーモ写真)
⇒吹き出し口から10cm離した状態で79.9℃となった。
<高温環境でスマホのバッテリーは劣化する?>
電気ストーブの直近(5cm)にスマホが放置されたと仮定し、恒温槽で85℃の高温環境を再現し、バッテリーの劣化の検証を実施。
⇒48時間経過でバッテリー容量は15%減少し、1~2mm膨張することも確認した。
85℃環境でのバッテリー劣化検証の結果
<なぜ劣化するの?高温環境での危険性は?>
劣化のメカニズムについては、信州大学 是津教授にもコメントをいただきました。
リチウムイオンバッテリーは、内部で「リチウムイオンの移動」と「化学反応」によって電気エネルギーをやり取りしています。
しかし高温環境では、これらの化学反応が加速し、電解液の分解や電極表面を保護する被膜の破壊が進行します。この結果、バッテリー内部の抵抗が増え、エネルギー効率が低下します。
さらに、反応のバランスが崩れることで、電極材料が劣化し、充放電を繰り返すうちに「容量の減少」や「膨張」が起こりやすくなります。
特に45℃を超える環境では、こうした劣化が急速に進行します。温度や使用期間、充電状態によっては、バッテリーがさらに膨張して筐体を押し広げたり、発煙・発火につながるリスクも生じるおそれがあります。
リチウムイオンバッテリーに詳しい
信州大学 是津教授
「リチウムイオン電池は、 温度にとても敏感な化学装置です。高温環境では化学反応が過剰に進むため、エネルギーを蓄えるための反応と、電池を壊す副反応の区別がつかなくなります。
それが''劣化''の正体であり、スマホを暖房器具の近くに置くなどは、実験室で化学反応を暴走させるのと同じような危険性を含んでいるんです。
温度上昇は「化学反応の2倍速ルール」(約10℃上がるごとに反応速度が2倍になる)で進むため、45℃を超える環境では劣化が一気に進行します。
高温下では電解液の分解や保護膜の破壊が進み、劣化や膨張、最悪の場合には発火の原因にもなります。
スマホをヒーターやホットカーペットの近くに置かないよう注意してください。」
スマホの冬に注意したいポイント①
冬場は暖房器具などの利用が増えますが、スマホを高温になる場所へ置くのは止めましょう。
バッテリーの劣化や発火などトラブルの原因となる可能性があります。
冬場は室内との温度差によって起こる結露もまた問題になることがあります。結露は、空気中の水蒸気が冷たい物体の表面で水滴に変わる現象で、急激な温度変化で発生しやすいと言われています。
結露の発生により、スマホ内部では電子部品に水分が入り込み、ショートや腐食することで、故障や動作不良を引き起こす可能性があります。また充電端子に水分が付いたまま充電すると、ショートによる発熱や発火の原因になるため、注意が必要です。
スマホ表面に結露を発生させる実験(0℃冷やしたスマホを温度28℃、湿度80%の恒温槽に入れ結露起こす )
端末表面に結露が発生している
スマホの冬に注意したいポイント➁
寒い場所から急に暖かい場所へスマホを移動させないこと。結露が疑われる場合は、湿度が低い環境に一定時間置いてスマホが常温に戻るのを待つことをおすすめします。
冬を迎えるとバッテリー持ちが悪いとのご申告が増える傾向があります。冬にバッテリーの持ちが悪いと感じられたことはありませんでしょうか?
<冬になると、バッテリーの持ちが悪くなる?>
スマホの動作保証温度は、周囲温度5℃~35℃となりますが、この範囲を下回る低温環境では、スマホが十分な性能を発揮できなかったり、充電ができなかったりすることがあります。
これはスマホに内蔵されているリチウムイオンバッテリーの特性として、低温環境でもバッテリーの内部抵抗が大きくなってしまうためです。またリチウムイオンバッテリーは「内部の電解液をイオンが移動することで電流が流れる」仕組みですが、温度が低くなると電解液の粘度が上がることで、イオンが移動しにくくなり、バッテリーの持ちが悪くなるのです。ただしそれはあくまでも寒い環境での一時的な動作で、室内など快適な温度の環境では元に戻るのでご安心ください。
周囲温度によるバッテリーの持ちを比較した実験結果
(動画再生を繰り返し、電源が落ちるまでの時間を比較)
<充電ができなくなる?>
低温環境ではバッテリーの持ちの影響ほか、充電をしたはずなのに充電ができていないという症状も発生することがあります。これは低温環境でもバッテリーの内部抵抗が高くなると説明しましたが、その状態で充電してしまうとバッテリーを痛めてしまう恐れがあり、スマホ側で充電を停止する制御しているためです。
低温環境で充電ができない症状を確認する実験
(恒温槽で-5℃の環境をつくり、そこで充電不可を確認した)
スマホの冬に注意したいポイント③
冬場の低温環境では、スマホのバッテリー持ちが悪くなったり、充電できない場合がありますが故障ではありません。温かい場所に移動したり、体温で温めたりすれば、少し時間がかかりますが元の状態に戻ります。
●バッテリーを長持ちさせるワンポイントアドバイス!
バッテリーを充電し忘れた時など、なんとか1日バッテリーを持たせたい時、ディスプレイの輝度を変更することでバッテリーが長持ちする可能性があります。
KDDIでは、スマホを安全にご利用いただくための情報を発信しています。
<解説:品質管理担当者>
システム戦略部 桑田卓哉